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東京高等裁判所 昭和46年(う)1603号 判決 1972年1月20日

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

本件控訴の趣意は被告人本人提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用する。

所論に対し判断を示すに先立ち、職権を以て調査するに、記録及び当審に於ける事実取調の結果に依れば、

一  被告人は、法定の除外事由が無いのに、昭和四十四年九月十三日午前十時四十五分頃、千葉県公安委員会が道路標識を設置して、一時停止しなければならない場所(以下、指定場所と謂う)と指定した習志野市津田沼四丁目四百二十番地先道路に於て、普通貨物自動車を運転して交差点に入るに際し、一時停止しなかつた旨の訴因に依り起訴され、右訴因に明示された一時停止規定の違反場所(以下、違反場所と謂う)である「習志野市津田沼四丁目四百二十番地先」は、当審に於て検察官の請求に依り「習志野市津田沼四丁目千三百六十七番地先」と変更を許可されたこと、

二  検察官は、右違反場所が指定場所であることの立証として、原審に於て、昭和四十一年十月三十一日付千葉県公安委員会告示第一二二号(以下、告示第一二二号と謂う)の抜粋の取調を請求し、当審に於て、右告示の抄本及び同四十六年十二月十四日付千葉区検察庁検察事務官作成の電話聴取書の取調を請求し、右は何れも被告人側に於て之を証拠とすることに同意し、証拠調が為されたこと、

三  違反場所は、

東方は習志野市役所方面に、西方は京成津田沼駅方面に、夫々通ずる東西の市道と、

習志野消防署前を走る南北の市道とが、

十字路を成して交わる交差点の西側、即ち、京成津田沼駅方面側入口の二、三米手前の地点であつて、その北側、即ち、京成津田沼駅方面から東進して該交差点に入ろうとする車両等の進路左側端に、該車両等に対し一時停止を命ずる旨の千葉県公安委員会の道路標識が設置され、被告人は、京成津田沼駅方面から習志野市役所方面に向い東西の市道を直進中、該交差点に入るに際し、一時停止しなかつたものとして訴追されていること、

四  違反場所である右一時止の道路標識の設置場所と告示第一二二号に依る指定場所、即ち、同告示⑥一時停止の指定場所28項の

場所

習志野市津田沼一丁目四二〇番地

摘要

京成津田沼駅方面から市道消防署前通りへの入口

とを対照して見るのに、

違反場所である一時停止の道路標識の設置場所は、右28の摘要欄の記載と一致するものの如くであるが、その地番は、28の場所欄の記載と異なり、「習志野市津田沼四丁目千三百六十七番地」であり、

他方、右28の指定場所「習志野市津田沼一丁目四百二十番地」は、叙上違反場所を指示するものでないのは勿論のこと、本件交差点の周辺を指示するものでもなく、又、摘要欄記載の「習志野消防署」の所在地番は、習志野市鷺沼町一丁目四百二十番地であつて、習志野市津田沼一丁目四百二十番地ではないことが夫々認められる。

してみると、告示第一二二号⑥一時停止場所の指定28項は、場所欄の記載と摘要欄の記載とに食違が有る為め、果して具体的に如何なる場所を一時停止場所として指定するものであるかが明らかでなく、斯る告示に依つては、道路交通法第四十三条の規定に基づき有効な一時停止場所の指定が為されているものとは謂えず、他方、本件違反場所に付いては、該場所が右同条の規定に基づく一時停止である旨を指定した有効な公安委員会の告示が存しないことに帰するので、よしんば被告人が本件違反場所に於て、自動車を運転して交差点に入るに際し、一時停止しなかつたとしても、一時停止義務違反の罪は成立しないものと謂わなければならない。それにも拘らず、本件に付いて有効な公安委員会の告示が存在することを前提として右の罪が成立するものとした原判決は、法令の適用を誤り、被告事件が罪と成らないのに之を有罪とした違法を冒し、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、被告人の控訴趣意に対する判断を俟つ迄もなく、原判決は破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三百八十条、第三百九十七条第一項に依り原判決を破棄し、同法第四百条但書に従い当裁判所に於て次の通り自判する。

本件公訴事実は、被告人は、法定の除外事由が無いのに、昭和四十四年九月十三日午前十時四十五分頃、千葉県公安委員会が道路標識を設置して、一時停止しなければならない場所と指定した習志野市津田沼四丁目千三百六十七番地先道路に於て、普通貨物自動車を運転して交差点に入るに際し、一時停止しなかつたものであると謂うに在るが、右は前記理由に因り罪と成らないから、刑事訴訟法第四百四条、第三百三十六条前段に依り被告人に対し無罪の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。

(八島三郎 栗田正 中村憲一郎)

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